2020.03.17

防災ネットワークで安心をつなぐ

【一般社団法人深谷防災ネットワーク代表理事・ミカド電子株式会社代表取締役/芝崎しばさき健寿けんじゅさん】

災害の少ない、恵まれた土地

関東内陸部に位置し、見渡す限りの平野が広がる深谷市。

晴れた日には、群馬県のほぼ中央部にそびえる赤城山の稜線が、市内各所から遮るものなく見渡せる。

津波や雪崩などの自然災害の心配は少ない土地ではあるが、他地域同様、いつ起こるか分からない地震や火災、水害とは無縁ではない。

非常時を想定し、人、物、情報のつながりを平時から構築しようと活動する、「一般社団法人 深谷防災ネットワーク」代表理事で「ミカド電子株式会社」代表取締役の芝崎健寿さんを訪ねた。

安心安全をつなぐネットワーク

多くの人の命を奪った、2011年の東日本大震災。

もし、これが深谷で起きたら。

その危機感が「深谷防災ネットワーク」結成のきっかけとなった。

「深谷は自然災害が少ない土地だからこそ、普段から危機感や実感を伴って有事に備えるのはなかなか難しいんです。でも、『東日本大震災』の時は深谷市内でも震度5強の大きな揺れを観測しましたし、令和元年の『台風第19号』では市内を流れる河川の水位が上昇して避難指示が出た地区もあります。深谷でも自然災害による被害は、現実に起こり得るんです。それでも、『ここは安全な土地だから』、『これまで何があっても大丈夫だったから』。そういう意識が根付いていると、避難指示が出ても避難されない方がいたり、車で逃げてはいけないという指示が出ているのに車で逃げてしまったりする。災害が少ない土地ならではの危険性があると痛感しました」

2016年には、熊本地震が発生。

この時にも深谷は大きな被害は免れたが、2度の大きな地震を経験して危機感を募らせた市内企業3社(ミカド電子株式会社、有限会社中里商店、埼玉ヤマト株式会社)の代表者が集まり、構想から約1年を掛けて、2017年に「深谷防災ネットワーク」が結成された。

「ミカド電子は20年以上前から火災警報器の組み立て加工を請け負ってきましたが、製造した商品を販売するところまでに留まっていました。でも、せっかくそういう商材を扱っているのだからもっと防災関連商品の取り扱い数を増やして、会社の存在と取り組みを地域の方々に広く知っていただいて、『非常時や困ったことがあった時には、ミカド電子に行けばいい』。そんな風に思っていただける、地域の防災拠点のような存在になれるのではないかと思ったんです」

「一緒に『深谷防災ネットワーク』を立ち上げた大谷おおや地区の中里なかざと商店さんは水、岡地区の埼玉ヤマトさんはコンテナ。それぞれ災害時に活躍する商品を製造していますし、事業所も一か所に固まらず市内に点在している。ネットワーク企業それぞれが、有事の際の各地区の頼れる緊急避難場所になることで、安心安全を地域全体に広げていける可能性があると思いました」

自助と公助の架け橋に

1995年に発生した阪神・淡路大震災の事後調査では、被災者の7割弱が家族も含む「自助」、3割が隣人等の「共助」により救出されており、「公助」である救助隊による救出は数%に過ぎなかったという調査結果がある。(平成30年版防災白書より)

何かあった時には、誰かが助けてくれる。

そう思いたくても、実際に被災した時に助けてくれるのは、見知らぬ誰かではなく、身近な家族や近隣住民か自分自身なのが現実だ。

「市民の方も、市役所や消防・警察による公助を強く求めるんですが、各都道府県の災害発生時の状況を見ると、現実的には公助による支援はスムーズにいかないこともあるんです。橋が損壊したり道路が寸断されたりすれば救助の手や支援物資は行き渡らないですし、公助による支援は地域の総合病院や避難所など、多くの人が集まる公共性の高い場所を優先せざるを得ない。それに、マンパワーも限られている」

「地縁や血縁による共助ももちろん大切ですが、現実的には地域コミュニティーは希薄になりつつある。僕自身も住んでいる家のご近所であれば顔を合わせて挨拶したりしますが、向こう2、3軒はアパートやマンションになるので、どんな方が住んでいるのかも分からない。それなのに有事の際にはチームワークを発揮してみんなで助け合えるかというと、それは難しいと思うんですよね」

「それなら、自分自身で自分や身近な人を助ける情報やツールを持っておこうと、自助の大切さを思うようになりました。でも、だからといって自分自身の身の安全は自分で守って下さい、という一方的な話にすればいいのではなくて。有事の際は『深谷防災ネットワーク』参画企業の、例えばミカド電子に来ていただければ、防災用品や非常用食料を常備しているので地域の方々向けに炊き出しもできますし、駐車場スペースを避難場所として開放したり、100人以上の従業員のマンパワーを提供することもできます。公助、共助よりも身近で確かな所で一人一人の自助の支えになるのが、『深谷防災ネットワーク』が地域に果たせる一つの役割だと考えています」

深谷に根付く企業だからこそ

災害が少ない土地で、いかに防災意識を高めるか。

芝崎さんは防災をより身近にリアルに捉えてもらうため、深谷市総合防災訓練に参加したり、ミカド電子で取り扱う非常食を使った炊き出しを行ったり、備蓄用品や非常用トイレの使い方などを教える活動をしている。

「防災用品って、思っているより重かったり、組み立てるときに決まった手順があったりするので、頭では使い方を理解できても、実際にはスムーズに使えなかったりするんです。訓練の時に有事を想定しつつ実際に体験していただければ、何かあった時にはこういう風に使えばいいという一つの安心感につながると思いますし、防災を自分ごととして捉えていただくきっかけになると思います」

「深谷防災ネットワーク」の協賛企業や自治会に対しては、中里商店の水、ミカド電子の備蓄ライト『ミカドスタンドライト』をはじめとする防災商品、埼玉ヤマトのコンテナなど各企業の製品を集約し、もしもの時の生活の安心をパッケージにして常備できるようにした。

「深谷防災ネットワーク」参画企業の中里商店は、深谷市役所環境水道部営業課(現:企業経営課)と連携を図り、市のイメージキャラクター「ふっかちゃん」のイラストが入った「ふっか水」を開発。深谷市内のふっかちゃん自動販売機や東京メトロ銀座一丁目駅のふるさと納税自販機などで販売している。

「ふっか水」は、深谷市の高島地区で地下200mから汲み上げられている地産の水で、健康に害を及ぼす可能性があるとされる硝酸態窒素が0.0%の水だ。

「普段から防災意識を育ててほしいという想いから、置いてあるだけでかわいい『保存水らしくない』親しみやすいデザインで作られています。飲料水としてだけでなく、非常食を作る時にも活躍できるよう、深谷ねぎのメモリがついていて、水でもお湯でも作れるアルファー米を作る時にも活用しやすいようにしているんですよ」

商品化するための予算は深谷市の環境水道部営業課(現:企業経営課)と協働し、クラウドファンディングで市内外から集めた。

「企業と行政が協働することでより多くの人の関心や協力が得られますし、もしもの時の安心が広く届くようになります。平時の企業活動は法令やルールに縛られ、その範囲で活動せざるを得ないですが、行政と協働したり協定を結んだりして有事の際のルールを明確にすると、もっと地域に貢献できることが増やせます」

「深谷防災ネットワーク」と深谷市が結んだ「深谷市防災協定」調印式の様子。災害時には、生活に必要な食品や備品などが市民の元に届きやすくなった。(写真左から、埼玉ヤマト㈱ 本多智さん、深谷市長 小島進さん、ミカド電子㈱ 芝崎健寿さん、㈲中里商店 中里隆さん)

「公助との連携や自助の啓発を図りつつ、深谷に根付いて事業を行う企業として、深谷市民として、有志の支援をどこまでできるかが僕の活動のテーマになっています」

地域の未来を担う子どもたちに向けて

様々な活動をしている「深谷防災ネットワーク」が今、特に力を入れて取り組むのが、子どもたちに向けた防災教育だ。

日本赤十字社と共同で地域の小・中学校での炊き出し訓練や出張授業も行っている。

ふっか水を使ってアルファー米を炊く子どもたち

ふっか水を使った炊き出しの様子

「非常食と聞くとやっぱり食べ慣れないので最初は煙たがる子もいるんですが、非常食は今、研究を重ねられてとてもおいしくなっています。ホクホクに炊けた非常食のお米を握って、それに塩をかけて食べるととってもおいしいんです。子どもたちも『こんなにおいしいんだ!』と喜んで食べてくれます」

炊きたてのご飯を試食

「子どもたちと接する度に、こういう活動を続けていくことってやっぱり重要だなと思うんです。防災意識を高めてほしいと思って災害の怖さを伝えたり、普段からの心がけが大切だと話しても、子どもってやっぱり無邪気で無防備で、危機感がない。でも、子どもって本来そういうものでそこに罪はないからこそ、その笑顔を絶やさず守りたいと思うんですよね」

DIG(災害図上訓練)

「子どもの頃に経験したことは、計り知れない大きな意味を持つと思います。体験学習や授業を通して、何かあった時には自分で自分や身近な人のことを守るんだという子がクラスに一人でもいてくれたら、すごくいい街になるんじゃないかなと思います」

「深谷防災ネットワーク」の協賛団体が増えれば、地域貢献活動の幅はさらに広がる。
芝崎さんはこれまでに20社以上の地元企業を自ら訪問し、協賛を依頼してきた。

「願わくば、地域の企業さん、自治会、市役所、教育機関、公共施設などあらゆる組織と連携して、公助と自助の橋渡しの役割を担いながら、安心安全の輪を地域全体に広げていきたいです」

災害の少ない、恵まれた土地だからこそ生まれた「深谷防災ネットワーク」。

地域の未来を担う子どもたちの心に自助の意識を確かに育みながら、安心安全の輪を広げていく。

 

(文:高田裕美 写真:矢野航)

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<ミカド電子株式会社/一般社団法人深谷防災ネットワーク事務局>
住所:〒366-0052埼玉県深谷市上柴町西1-21-13
TEL:048-573-6200
HP:http://www.mikado-denshi.com/index.html

<有限会社 中里商店>
住所:366-0814埼玉県深谷市大谷1458
TEL:048-571-0502
HP:https://bso4043.a.bsj.jp/

<埼玉ヤマト株式会社>
住所:〒369-0201埼玉県深谷市岡1900-1
TEL:048-546-1081
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