2019.03.13

市民自らの手で、市民の生命と財産を守る。

【「割烹 双葉」料理人/深谷市消防団第8分団 柿澤祐介さん】

地域に愛されて50年

深谷駅から車を走らせること約10分。今年で創業50年目を迎える「割烹 双葉」に到着する。「割烹 双葉」の2代目として厨房を任される、柿澤祐介さんを訪ねた。

厨房に立つ先代の父・治男さんの背中を幼い頃から見て育ち、高校に上がる時には後を継いで料理人になることを心に決めていた。

今年で入社20年目になる。

深谷市は、利根川と荒川の2つの水系に恵まれ、深谷ねぎやほうれん草、ブロッコリー、とうもろこしなど、種類豊富で良質な農作物が収穫される土地だ。

「先代からは、昔、利根川が氾濫した時に肥沃な養分を含む粘土質の川の土が流れて、今の豊かな土地の土台になっていると聞いています。夏は暑くて冬は寒いはっきりした気候も手伝って、『日本の台所』と呼ばれるほどの種類豊富で甘くて美味しい農作物が育つ土地になっています」。

「割烹 双葉」は創業以来、「地産地消」をコンセプトに掲げる地域の割烹料理店だ。

「野菜は、地元の農家さんから直接仕入れていて、市場で買うことはほとんどありません。もちろん、季節やお料理によっては深谷にない食材を仕入れて使うこともありますが、大体は地元で採れた農作物を使わせていただいています。せっかくこの地でお店をさせていただいているので、その恩恵をフルに活かして、お客様には地元の新鮮な食材を使った美味しいお料理を楽しんでいただきたいと考えています」

柿澤さんは、地産地消を志す父の姿を側で見て、独学で料理を学んだ。柿澤さんにとって、地元の農作物はただの“食材”以上に身近で大切な存在なのかもしれない。

地元の人間が地元を守っているという安心感を持って欲しい。

「割烹 双葉」で料理人として腕を振るう柿澤さんには、もう一つ別の顔がある。

それが、深谷市消防団としての活動だ。深谷市内には全部で25の男性分団と女性分団1団の計26の消防分団がある。柿澤さんはそのうちの第8分団に所属している。

柿澤さんが所属するこの地区の消防団の活動は、一般的な消防団の活動とは一線を画す。

「消防団っていうと、火災や震災など有事の際の活動がメインだと思われがちですが、『自分たちの地域は、自分たちで守る』という精神の下、日頃から広く市民の安全・安心を守るための活動をさせていただいています」

中でも特に力を入れているのが、地域の子どもたちに向けた啓発活動だ。

「小中学校での防災・消火訓練だったり、社会科の授業で自分の家の近くの消防設備(消火栓や防火水槽)の位置にドットシールを貼ってきてもらって、防災マップを作る授業もさせていただいたりしています」

「あとは、地域のお祭りの時に消防車を出して放水活動の様子を見てもらったり、地震体験車を呼んで体験をしてもらったり。様々な機会に交流を深める取り組みも行なっています」

「消防に対する理解を深めたり、地域全体の防災意識を高めたりする目的もあるんですが、1番の目的は地域で暮らす子どもたちとの触れ合いですよね。近所のいつも見かけるおじさんたちが、いざとなったら必ず守ってくれる。子どもたちにはそういう活動をしている大人が身近にちゃんといるんだという安心感の中で、伸び伸び育っていって欲しいんです」。

明戸地区は人口約4,900人。住民が多い地域ではないが、その分、地区内の方々との間に程よい距離感が保たれていると柿澤さんは感じている。

「親が忙しいときには、地域のおじいちゃんやおばあちゃんが近所の子どもたちの通学の手伝いや見守りをしてくれます。消防団員が訓練していれば子たちの方から駆け寄ってきて話しかけてくれたり、消防車に乗って巡回しているとすれ違う時に笑顔で挨拶してくれたりします」

「みんな顔見知りで、顔を合わせれば挨拶するような関係性なので、地域の子どもたちに、何かあった時には私たち地元の消防団と頑張るんだよっていうと、『僕たちも頑張ります!』っていう反応が返ってくるから、子どもたちともこの地域ならではの関係性が築けているのかなと思います」

日頃の活動が評価されているからか、地域住民からの非常時の連絡が公的機関ではなく、まず柿澤さんのところに入ることもある。

「『家が燃えている』と突然地域のおじいちゃんから自分のところに電話がかかって来たことがあります。消防署には連絡したんですか?と聞いたら『まだしてない』と。『おめぇんとこに言えばなんとかしてくれる。大丈夫だろうと思ったんだ』と言われました」

「地域で暮らす方々にとって、消防団員の顔を知っていることの安心感って大きいと思うんです。この地域で暮らす方々には、どんな時でも地域の安全は地元の消防団が守ってくれるという、絶対的な安心感を持って欲しいと思います」。

父の言葉

柿澤さんの地域貢献活動は本当に幅広い。料理人、消防団の他にも商工会議所青年部の理事や深谷市スキー連盟の委員、アルペンスキーのヘッドコーチなども務める。コーチとしては、深谷市では初となるインターハイ出場者も育て上げた。

活動にかける想いのルーツをたどると、「割烹 双葉」の先代、柿澤さんのお父さんの存在に辿り着く。

「『人の繋がりは財産だ』って高校生の時に親父に言われまして、それがずっと心に残っています」

「親父の世代は、みんな深谷市内の高校に進学して、そこの同級生や先輩・後輩がお店のお客さんになるイメージが強かったんです。でも、自分はスキーをしていた関係もあって、隣町の高校に進学しました。当時は高校生だったので父の言葉に少し反発心のようなものもあったのですが、今、色々な活動を通して地域の人と関わらせていただく中で、その言葉の意味を感じています」

休日返上で地域貢献活動に取り組む柿澤さんには、ゆっくり休む暇もない。様々な苦労もあるのではないのだろうか。

「最初は正直、面倒だなと思う部分もあったんです。でも今は非常に勉強になることが多くて。それぞれの活動を通して、今まで触れ合うことがなかった方々と出会い、親しくなれます。深谷に対しても恩返しができて、様々な分野で人との繋がりも築ける。今後もチャンスがあれば地域活動に積極的に協力させていただきたいです」

今している活動を日々、大切に積み重ねる。

料理人、消防団員、商工会議所青年部の理事、アルペンスキーのヘッドコーチ…柿澤さんの地域活動は、一見するとそれぞれ系統の違う別々の活動のように見えるかもしれない。

しかし、『人との繋がりを大切にする』という大切な軸の中で、それぞれの活動が有機的に繋がり、地域にも柿澤さんご自身にも好循環を生み出しているようだった。

お話を聞き終えた後、「割烹 双葉」へ向かう車の中で深谷市役所の職員が言っていた言葉を思い出した。

「双葉さんでは、お客さんの都合に合わせて色々調整してお料理を出してくださるんです。地元の人ならみんな知ってるし、みんな行ったことがあるんじゃないかな」

何気ない会話だったが、「人の繋がり」を大切にする柿澤さんだからこそ、このように地域の方々との関係を築くことができたのだろうと改めて感じる言葉だった。

地域の安心・安全を守る事で、地域の方々からも愛され守られる。住民同士の共助の関係性があたたかく息づいていた。

(文・写真:矢野航 写真提供:割烹 双葉)

<割烹 双葉>
住所:〒366-0016 埼玉県深谷市新井302-1
お問い合わせ・ご予約:048-571-0888
営業時間:御予約にて賜わります。
定休日:不定休

<深谷で暮らしたい方へ>
深谷市の生活環境:
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