2020.01.17

命を大切にする子に育ってほしい

【深谷山高台院住職・深谷保育園、深谷西保育園、深谷藤沢保育園、深谷上柴保育園統括/後藤高明さん】

安心感を生む子育て環境

夫婦共働きの世帯が増加し、家族の形も子育てのあり方も多様化しつつある今、幼い子どもたちが一日の大半を過ごす場所は、家庭から保育園などの子育て施設へと変わりつつある。

地域全体で子どもを育てる環境があるという深谷に、深谷山高台院住職で社会福祉法人深高会深谷保育園・深谷西保育園・深谷藤沢保育園・深谷上柴保育園を統括する後藤高明さんを訪ねた。

「深谷には元々、地域の子どもたちを各地のお寺で預かる文化があって、それが今に続いています。うちのお寺の本堂が前身になって、深谷小学校は明治6年、深谷保育園は昭和29年に始まりました。今でも本堂には当時ここに通っていた子どもたちが墨筆を使って背比べした跡や、読み書きそろばんを習う時に使っていた机が大切に残っているんですよ」

「この辺りにお住まいの方々や現在保育園に通っている子どもたちの保護者の中には、深谷保育園、深谷小学校を卒業された方も多いですし、園で働いている保育士さん約100名のうち15、6名が卒園生です。自分が通っていた保育園に子どもを通わせてその子も自分の子を深谷で育ててここに通わせていたりするので、親子何代にも渡って安心して子育てができる環境があると思います」

「新しい土地で生まれたばかりのお子さんを抱えてどうすればいいか分からないというお母さん、お父さんもいらっしゃるかもしれませんが、深谷では各地域の保育園に『子育て支援センター』が併設されているので、保育施設にまだ来ていないご家族でも育児のサポートが受けられます。子育てで迷ったり悩んだりした時も保育園に来て下されば、必ず保育士さんや経験を積んだ方がいて育児の悩みを相談できますし、同じくらいの年齢のお子さんを持つ親同士で繋がることもできるので、深谷には子育てが孤独にならない環境があると思います」

「社会福祉法人や学校法人が運営している保育園の数も多く、人口約15万人の街に40近くの保育園、幼稚園などの教育施設があります。それが中心市街地に固まらず地域に万遍なくあるので、市内のどこかしらの保育園には入れる状況です。深谷保育園の場合だと朝7時から夜19時30分まで土曜日もやっているので、働くお母さんやお父さんにとっても、とてもいい環境が整っています。のどかな自然に囲まれていて、自由に遊べる公園や施設もありますし、子どもたちにとっても落ち着いてのびのび過ごせるような環境があると思います」

子どもたちへの想い

深谷市が地域をあげて子育て支援に力を入れる背景には、新しい命の誕生とその成長を共に喜びたいという気持ちがある。

そのあたたかさが子どもたち一人一人の心にも届くよう、後藤さんは子どもたちに愛情を伝える機会を作ることを大切にしている。

「1日の12時間以上を保育園で過ごすということは、1日1.5時間位しかお母さんやお父さんといられないということ。子どもたちは大好きなお母さんやお父さんともっと一緒にいたくてもいられず、寂しい思いをしているんですよね」

「深谷保育園では、年2回の保育参加の時には、保護者の方に子どもをぎゅっと抱きしめてもらう機会を作っています。その時は、それまで抱っこなんてしなくていいと言っていた子どもたちが、不思議とぐっと抱き寄せられてお母さんやお父さんの腕の中で安心しているんです。毎日一生懸命に働いているお母さんやお父さんは、ゆっくり子どもを抱っこしている暇も余裕もない。子どもたちはそのことを知っているから、お母さんたちのこと大好き、もっと一緒にいたいと思っていても口には出さずにいます」

「勉強や運動ができるとかできないとかクラスに馴染める馴染めないの物差しで測られるのは、学生時代のせいぜい十数年のことです。でも、子どもたちの人生はその先何十年も続いていきます。その長さで子どもの幸せを考える時間も大切にしましょうと言うと、お母さんやお父さんたちも自然とギュッと強く抱きしめていますね。保育園は子どもたちを安全にお預かりする場というだけではなく、子どもたちがいかに愛情を感じながら安心して過ごせる場所になれるかだし、お母さんやお父さんにとっても、ちゃんと見ていてくれる人がいる安心感の中で子どもへの愛情を再確認できる場にできるかだと思っています」

深谷保育園では親子間だけでなく、子どもの成長を見守る全ての人と子どもたちの心を繋ぐことを大切にしている。

「子どもたちと一番長い時間を過ごす園の先生方には、子どもたちがどんな気持ちで保育園に通っているのかをお話しして、例えば、整列する時もちゃんと並べるようになるのがいいことなのではなくて、並べない子がいたらその理由を見て一人一人に寄り添ってあげて欲しいと話しています。私も園に行った時は必ず一人一人の子の目を見て頭を撫でながら『いい子、いい子』と褒めることを大切にしています。年少さんに『いい子いい子』してあげていたら年長さんたちが来て、園長先生も『いい子いい子』してあげるよと、時々私も子どもたちから『いい子いい子』されることもあるんですよ。子どもが自然体で楽しく過ごしている様子を見るとお母さんやお父さんはほっとしますし、その安心した顔を見れば子どもたちも自然と笑顔になります」

子どもの顔を見ればその子がどこの家の誰かが分かる程、顔の見える子育て環境があるという深谷市。

地域のおじいちゃんやおばあちゃんも、子どもたちの成長に欠かせない大切な存在だ。

「運動会は深谷保育園、深谷西保育園、深谷藤沢保育園、深谷上柴保育園の4園合同で開催しているんですが、その時は保育園に通っている子どもたちとその家族だけでなく、地域の方々も招いて、全部で1,500人位が子どもたちのために集まります。リレーや玉入れなど様々な競技がありますが、どれも順位を競うのではなく、何着でも良くやったねとみんなで子どもたちを褒めてあげる機会にしましょうと話しています。地域のおじいちゃん、おばあちゃんたちも深谷弁で褒めてくれるんですよ。全く知らない人から褒められてキョトンとする子もいますが、子どもたちにとっては、いつも顔を合わせている人以外も自分のことをちゃんと見ていてくれているんだという気付きと安心感に繋がると思うんです」

家庭内だけでなく地域全体で子どもを育む背景には、子どもたちの健やかな成長を願う気持ちがある。

「うちの保育園の卒園生ではないですが、悲しいことに中学生や高校生くらいの若さで自ら命を絶ってしまうお子さんもいらっしゃいます。子どもたちには、何か嫌なことがあったり失敗することがあったとしても、立ち上がってもう一歩進んでいける子に育ってほしいです。大好きな人にいつでも心を打ち明けられる人であってほしいし、これができなかったから私はダメなんだではなくて、例えそういう物事に出会っても、そこからまた立ち上がってもう一歩進んでみようとする人であってほしい」

「そういう優しさと強さを持った子に育てるためには、幼いうちに、僕には、私には、自分のことを見て思ってくれる人がいつもいるんだという実感を心のベースに持ってもらうことが大切だと思うんです。それは、お母さんやお父さんだけで育むものではなくて、子どもたちが長い時間を一緒に過ごす保育園の先生や地域のおじいちゃん、おばあちゃんと触れ合う中でも育んでいけるし、そうであって欲しいと思っています」

あらゆる命を大切にできる子に

深谷保育園はグアムと韓国に姉妹園を持ち、毎年25名前後の子どもたちを受け入れて、相互交流できる環境を作っている。

国際交流に力を入れるようになった背景には、後藤さんが高校3年生の時に周囲の反対を押し切って実現したというアメリカ留学時の経験がある。

「高校生の頃はお寺を継いでお坊さんになるのが嫌で、『お経に英語はいらない』と言う両親の大反対を押し切ってアメリカのノースカロライナ州に留学しました。留学先では異国に一人でいる孤独感の中で辛く苦しい思いもしたんですが、そういう中だからこそ、遠く離れた日本から自分のことを心配したり気にかけたりしてくれる人の心をすぐそばに感じることができたんです。それにちゃんと顔を挙げれば、ホストファミリーとか通っている学校の先生とか、アメリカにだって自分の事を見て気にかけてくれる人がいるんですよね」

多感な時期に「人種のるつぼ」と呼ばれるアメリカで様々な国の人々と出会い、多様な価値観に触れた後藤さん。

日本の文化やそれを生み出す思想にも、改めて向き合うことができた。

「日本のように、命あるものを何でも柔軟に受け入れて全部大事にしようとする考え方は、他の国の宗教や文化にはない独特の感覚なんです。だからこそ日本が世界に果たせる大きな役割は、文化や宗教、国の違いも乗り越えて、人と人同士、心と心で理解しようとする人を育てられることだなと思うようになりました。考え方や価値観が違うから分かり合えないと諦めるのではなく、お互いに理解し合おうと歩み寄れば、最後には必ずみんな同じ人間だというところに行き着きます」

「子どもたちには、国際交流を通して英語とか韓国語とか言語を学んで欲しいのではなく、異なる文化や生活習慣をバックグラウンドに持っている人の事を理解しようとしたり、大切にしようとする優しい心を育てて欲しいんです。大人は言語を調べたりしながら、頭を使って一生懸命コミュニケーションを取ろうとするんですが、子どもたちは言葉なんて通じなくてもすぐに仲良くなれるんですよね。世界には様々な考え方や価値観があってそれらに幼い頃から触れて欲しいという想いから、うちはお寺ですけど、私も赤い衣を着てひげ付けてクリスマス会もやっているんですよ。怒られながら」

「子どもたちが情緒豊かに育ってくれれば、宗教も国も関係ない訳で。子どもたちのためになることが一番大切なので、仏教だからこれはするけどこれはしないということなく、広く取り入れて行きましょうという方針を大切にしています。少しでもレールから外れると排他、排斥しようとする世の中ですけど、保育園にも様々な家庭環境の子がそれぞれの想いを抱えて集まっているので、普段から心と心で寄り添って皆で助け合って生きて行きましょうと伝えているんです」

あらゆる命に寄り添い、大切にしようとする子どもたちの優しい眼差しは、小さな命にも向けられている。

「子どもたちと一緒に園の外にお散歩に行くと、例えば、蟻が出てきた時には踏まないように気を付けて歩いていたり、道に咲いているお花を見つけると『先生!』と目を輝かせてくれるんです。どんなに小さな命にも心を動かして、大切にしてくれている姿を見ると、本当に嬉しいなと思います。次の世代へと命が繋がるその時に、あらゆる命に寄り添い、大切にする優しい心も一緒に繋いでいけたらと思います」

生まれたばかりの子どもたちに一番に手にして欲しいのは、知識や物ではなく、自分は確かに愛され、大切にされているというあたたかな実感だ。

深谷で育つ子どもたちは、地域のたくさんの方々から成長を見守られ、愛情を注がれる。

そうして注がれた愛情は、子どもたちの心の一番深いところで生き続け、あらゆる思想や信条、文化、社会、国の違いさえ超えて、他者の気持ちを和やかに思いやれる心に繋がっていくだろう。

深谷には、子どもたちの心と未来を豊かに育む、街と人の姿がある。

 

(文:高田裕美 写真:矢野航)

<深谷保育園>
住 所:埼玉県深谷市田谷308
お問合せ:048-551-6333
開園時間:7:00 ~ 19:30
HP:http://www.shinkokai.or.jp/2015/Shinkokai/Shinkokai2015/Welcome.html

<深谷市で子育てしたい方へ>
深谷市魅力発信ポータルサイト「まるっと深谷ガイド」
深谷で「育てる」魅力:https://www.fukkachan.com/kurasu/k01.html